脳卒中センター
ごあいさつ
ここ桑名・いなべ生活圏を含めた北勢地区は、2017年頃まで三重県で数少ない人口増加地区にありながら、迅速な搬送と緊急治療が求められる脳卒中の診療体制が必ずしも十分とは言えませんでした。救急隊や周辺施設との連携、最新の脳卒中医療に必要な人材の確保と高機能の施設整備などが長年の課題でした。
これらの問題を解決するために2018年5月新病院開院時に開設した脳卒中センターでは、救急隊とのホットラインの運用開始・最新機器の導入・脳卒中ケアユニット(SCU)の稼働・スタッフの教育・関連診療科や部門との連携強化をはかりながら、今まで分散型だった脳卒中診療を集約化し“脳卒中オール・イン・ワン”をキャッチフレーズに、365日24時間対応が可能な診療体制を整備してきました。その後の新型コロナ感染症のため脳卒中センターの活動も大きく影響を受けましたが、この地域の脳卒中医療を改善するため今後も努力して参ります。
桑名市総合医療センター脳卒中センター長 阪井田 博司
略歴
1987年 三重大学医学部卒業 三重大学・静岡県立総合病院・山田赤十字病院(伊勢赤十字病院)・ 桑名市民病院(桑名西医 療センター)・国立循環器病研究センターなどを経て、2001年4月〜2017年8月三重大学医学部附 属病院にて勤務 |
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2001年4月 脳神経外科 助手 2002年7月 脳神経外科 講師 2004年8月 救急部 講師 2005年9月 先進的脳血管内治療学講座 准教授 2011年4月 先進的脳血管内治療学講座 病院教授 2012年9月 先進的脳血管内治療学講座 教授 2013年12月 血管ハートセンター 副センター長(兼任) |
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2017年9月より桑名西医療センターを経て、2018年4月桑名市総合医療センター副院長・理事・脳卒中センター長・脳神経外科部長、三重大学客員教授、三重大学医学部臨床教授 |
脳卒中とは
卒中の「卒」は「突然」、「中」は「あたる」という意味があります。すなわち「脳卒中」とは「脳が突然(病気に)あたる」という昔ながらの呼び方で、急性脳血管障害の一般的な総称です。
2020年(令和2年)の厚生労働省「患者調査」で、全国で174.2万人(男性94.1万人・女性80.1万人)が脳血管障害になっており、特に70歳代の男性と80歳代の女性の患者さんが多いことが報告されています。
急性脳血管障害は主に3種類に分かれます。最も多いのは血管が閉塞して脳細胞が壊死する「脳梗塞」で全体の約7割、続いて高血圧などが原因で脳の内部に出血する「脳出血」が約2割、脳動脈瘤と呼ばれる血管のコブが破裂して脳の底面〜周辺に出血が広がる「クモ膜下出血」が約1割弱です(正確な統計は日本脳卒中データバンク:https://strokedatabank.ncvc.go.jpなどで閲覧できます)。
脳梗塞
脳血管の動脈硬化や不整脈のある心臓の中にできた血栓が原因で脳の血管が閉塞する病気です。多い症状は手足の麻痺や言語障害です。気をつけなければいけないのは、特殊な原因でなければ脳梗塞になっても頭痛はありません!
軽症であれば点滴や内服薬で症状の悪化や再発を予防すればいいのですが、重症の場合は直ぐに救急車を呼んで迅速かつ適切な治療を行わなければ重篤な後遺症が残ることになります。そのため市民の皆さんにFAST(早く)で憶えていただくよう啓発活動を行っています。
脳の血管が閉塞してから4.5時間以内にrt-PAという薬剤を点滴すれば、再開通して症状が改善することがあります。また太い血管が閉塞した場合は血管内治療(機械的血栓除去術)が有効なことがあります。いずれも時間との勝負で脳梗塞が完成してからでは効果がありません。FASTの症状が出たら頭が痛くなくても直ぐに救急車を呼ぶことが大切です。
脳出血
比較的細い血管が破綻して脳の中で出血する病気で、約70%の患者さんは高血圧が原因です。最近は血圧管理により減少傾向ですが、抗血栓薬(脳梗塞などを予防するため血液をサラサラにする内服薬)を服用している患者さんが増えています。出血した場所で、被殻出血・視床出血・脳幹出血・小脳出血・皮質下出血などに分かれます。症状は前述のFASTの症候に加えて頭痛を伴うことが多いです。
出血の部位と血腫(血の塊)の大きさによって、a)手術せず血圧を下げて点滴などで治療した方が良い出血、b)手術が必要な出血、c)手術するとかえって状態を悪化させる出血、に分かれます。手術は全身麻酔下での開頭血腫除去術が標準ですが、最近では体への負担が少なく小開頭で手術できる神経内視鏡下血腫除去術も取り入れています。
クモ膜下出血
脳の血管が枝分かれする部分はもともと構造的に弱いため、そこが膨らんでコブを作ることがあります。お餅を焼いていると弱い部分がプク〜と膨れるのに似ています。それを脳動脈瘤と言いますが、それが増大し不整な形に変形すると一際脆弱な部分に孔が空いて出血します。これを脳動脈瘤の破裂と呼びますが、風船が割れるように脳動脈瘤が弾け飛ぶわけではありません。脳動脈瘤の孔から「クモ膜」と呼ばれる脳を保護するクモの巣のような膜の中(下)にある髄液腔に出血するためクモ膜下出血と呼ばれます。
症状は「今までに経験がないほどの、カナヅチで殴られたような激しい頭痛」が特徴です。亡くなる人、助かっても後遺症が残る人、元気に社会復帰できる人、が概ね三分の一ずつという非常に危険な出血です。破裂した脳動脈瘤は出血した後に血糊で一旦仮止め状態になります。しかし直ぐに再破裂して2回目の出血で80%以上の死亡率という報告もあります。そのため再出血する前に脳動脈瘤の外科的治療が必要になります。ただし非常に重症の場合、手術ができないこともあります。
外科的治療は「脳動脈瘤ネッククリッピング術(開頭術)」と「脳動脈瘤コイル塞栓術(血管内治療)」があり、それぞれの長所・短所を十分に検討しながら治療法を選択します。その成績を比較した世界的な試験※で、血管内治療の方が少し成績が良かったという結果が報告されてから、血管内治療の比率が高くなっています。
※International Subarachnoid Aneurysm Trial (ISAT) of neurosurgical clipping versus endovascular coiling in 2143 patients with ruptured intracranial aneurysms: A randomized trial. Lancet 2002
脳動脈瘤の手術が無事終わっても、心臓・肺などを含めた全身合併症、脳の血管が縮んで細くなる脳血管攣縮や水が溜まる水頭症など、様々な問題を乗り切るために2週間は厳重な全身管理が必要になります。そのため十分な設備と専門スタッフを配置した脳卒中ケアユニット(SCU)などの専用病室を備えています。
脳卒中センター
「脳卒中と循環器克服5カ年計画」や「脳卒中・循環器病対策基本法」が制定され、国と学会が脳卒中急性期医療の集約化や連携強化を推進する中で、当院の脳卒中センターは2019年7月(一次申請)に「日本脳卒中学会認定一次脳卒中センター(PSC : Primary Stroke Center)」に認定されました。多職種の専門スタッフを配置して各種検査や治療器機を整え、救急隊とホットラインを運用し周辺施設との連携を強化する取り組みも行っています。
※一次脳卒中センターの詳細は日本脳卒中学会ホームページ (https://www.jsts.gr.jp/common/facility_psc.html)を参照してください。
脳卒中センターは脳神経外科・脳神経内科の医師に加え、認定看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・医療ソーシャルワーカー・薬剤師・管理栄養士などの多職種のスタッフが集まってチーム医療を行っています(参考資料: 桑名市総合医療センターニュース: 第54号2018年07月発行)。
2020年以後は新型コロナ感染症の影響を強く受けましたが、2018年5月脳卒中センター開設後は著明に入院患者数や外科的治療件数が増加しました。
(参考資料:脳卒中センター・脳神経外科(2021年度版))取り分け、病院内外の体制を整備して急性期脳梗塞に対する主幹動脈再開通療法(主にステント型血栓回収器機を用いた機械的血栓回収療法)が増加し、脳卒中センターを設立する意義について報告しました。
(参考資料:Initial Result of Stroke Center JNET 2020)
市民公開講座
脳卒中センターの重要な任務の一つが、市民への啓発活動です。
・脳卒中とはどんな病気か
・脳卒中にならないように何に気をつけたら良いのか、
・どんな症状がでたら直ぐに救急車を呼ばなければいけないのか
・脳卒中になったらどんな治療が必要なのか
などを市民の皆さんに知っていただくことが大切です。
この地域では前例がない中で、2019年1月19日(土)に桑名市総合医療センター脳卒中センター「第1回市民公開講座:知っておこう! 脳卒中の最先端医療とその予防 」を、2019年10月19日(土)に「第2回市民公開講座:知っておこう! 脳卒中の急性期治療とリハビリテーション 」を七栗記念病院さんと合同で開催しました。
「脳卒中センター第3回市民公開講座」開催報告
2023年(令和5年)10月21日(土)に、新型コロナの影響で延期していました「脳卒中センター第3回市民公開講座」を柿安シティホールにて開催しました。
特に患者さんの数が多い「脳梗塞」と呼ばれる血管が閉塞する脳卒中を中心に取り上げ、「知っておこう! 脳卒中センターの役割と脳梗塞の予防・治療について」というテーマで3つの講演を行いました。会場内では感染症対策のためマスク着用などの協力をお願いし、初めての試みで「手話通訳・要約筆記・磁気ループ」を取り入れて講演や質疑応答などを行いました。
顔が曲がったり手に力が入らなくなったり言葉が喋りにくくなったりしたら、頭痛が無くても直ぐに救急車を呼ぶことが大切なことを、パンフレットを配布して啓発させていただきました。
「脳卒中センター第4回市民公開講座」開催報告
2024年(令和6年)9月21日(土)に「脳卒中センター第4回市民公開講座」を柿安シティーホールにて開催しました。
昨年の市民公開講座のアンケートで「クモ膜下出血」について講演を聴きたいとの要望をいただき「知っておこう! クモ膜下出血と脳卒中の予防について」というテーマで講演を行いました。脳卒中の片マヒ体験コーナーも開設し前回と同様に「手話通訳・要約筆記・磁気ループ」を取り入れました。
2024年(令和6年)は能登半島地震から始まり、脳卒中学会から「復興にはまず健康 脳卒中にならないために」という啓発ポスターが発信されました。今回の講座では災害対策や災害時の健康維持についても取り上げました。
講演スライドとアンケート結果を閲覧できるようにしましたのでご覧下さい。なおスライドはPDF (Portable Document Format)形式で添付しますので、動画のスライドは再生できません。
講演1 脳卒中と今後の診療体制について(+災害と脳卒中予防)
脳神経外科 脳卒中センター長 阪井田博司
講演2 クモ膜下出血の予防と外科的治療
脳神経外科 部長 梅田靖之
講演3 今すぐ始める!脳卒中予防 −自分と大切な人を守るために –
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 白井美佳
講演4 脳卒中予防のための食事と栄養
管理栄養士 下間咲花
お知らせ
2025年2月6日(木)嚥下(えんげ)教室のお知らせ
「嚥下(えんげ)教室」を2025年2月6日(木)に開催します。
詳しくはポスターをご参照ください。