名誉理事長の部屋令和6年9月1日付で、竹田寬先生に名誉理事長の称号が授与されました。

名誉理事長の部屋

12月:枯れ尾花

―風に吹かれて夕陽を浴びて、元祖、光のページェント―

 上の写真、何だかお分かりですか。螺旋型の電球が光りながら浮かんでいるようにも見えます。あるいはソフトクリームのようなお化けがふわふわ飛んでいるようでもあります。それとも世界各地で開催されるランタン祭でしょうか。
 「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」という有名な句があります。幽霊と思って恐る恐る見ていたものが、実は枯れた「すすき」だったということで、物事をこわごわ眺めていると、実際とはかけ離れたとんでもないものに見えてしまうという意味です。江戸時代の俳人、横井也有(やゆう)(1702-83年)の詠んだ「化け物の 正体見たり 枯れ尾花」の句に由来すると云われています。上の写真は、その枯れ尾花、すなわち枯れすすきの穂が夕陽を浴びて怪しく光っている様です。確かに冬の夕暮れ、野山を一人で歩いていて、このような光景に出会ったら驚きますね。ましてや狐火や怪火の存在が信じられていた江戸時代ですから、なおさらでしょう。そこで今回は冬の風物詩、枯れ尾花です。

 枯れ尾花の写真へ入る前に、「すすき」に類似する「おぎ」や「あし」(または「よし」)との区別のについて整理しておく必要があります。「おぎ」も「あし」も「すすき」と同じイネ科の仲間ですが、しばしば区別することが困難で、特に「すすき」と「おぎ」は酷似しており、よく混同されます。私も今まで区別がつきませんでした。そこで今回、その三者の違いを少し勉強しましたので、下図にまとめました

「すすき」の株立ち

「すすき」:かや(萱・茅)とも呼ばれ、野原など乾燥した場所を好みますが、湿地帯でも育ちます。他の2種と最大の相違点は、株を作ることです(株立ち)。葉は、ほとんど茎の下端部から出ますが、ぽつぽつと茎の真ん中の高さぐらいまでは出ます。したがって茎が何本も一点に密集して育ち、たくさんの葉が地面近くから出ておれば「すすき」です。小穂の先端に細い糸状の禾(ノギ)が見られるのも特徴です。 
「おぎ」(荻):河岸などの湿地に群生しますが、「すすき」との相違点は株立ちしないことです。茎は地下茎から間隔を置いて生長しますので、「すすき」のように密集することはありません。他に「すすき」と異なる点は、穂は長くて銀色に光ること、葉は茎の高い部分、穂のすぐ下あたりからも出ること、小穂の先端にノギのないことなどが挙げられます。 
「あし」(葦)または「よし」:「人間は考える葦である」で有名ですが、アシは「悪し」に通じるということで「よし」(善し)とも呼ばれるようになりました。川の洲や湖沼など水辺に群生する大型の多年草で、茎は3mぐらいの高さまで伸びます。「おぎ」と同じように株を作らず、地下茎を介して増えますので、茎は間隔を置いて育ちます。葉も「おぎ」と同じく茎の上部、穂の直下からも出ます。「すすき」や「おぎ」と異なる点は、穂が黒っぽいこと、葉の中央を縦走する白いすじのないこと、茎が中空になっていることです。中空の長い茎は軽いので、夏の日除けに使われる「よしず」の材料となります。

 

 

この上下2枚の写真は、よく晴れた風の無い穏やかな日の午後に撮影したもので、如何にものどかな光景です。
上の写真では、小川の両岸はぎっしり生えた「すすき」の淡い桃色の穂で埋め尽くされています。左の岸にみえる紅葉は「うるし」でしょうか。
下の写真は、小さな疎水沿いにある窪地に密集した「おぎ」です。風が無いため穂は綿菓子のように膨らんで直立し、群がるペンギンのように立ち並んでいます。

 

風が吹くと様相は一変します。上の写真は川岸に群れる「すすき」を撮ったものですが、強い風に白い穂が大きくたなびき倒れそうになっています。

風になびく「おぎ」を逆光で撮ったものです。白黒フィルムで撮影したかのような写真になりました。冬の雲を透ける太陽と冷たい風、季節の厳しさを感じます。茎が横に並び、穂の真下からも葉が伸びていて、「おぎ」の特徴をみることができます。

上の写真は、3枚前の写真と同じ窪地で撮ったものですが、風が強く穂がなびいています。画面上方の比較的高い場所では、一様に白く長い穂がなびいています。一方、画面の真ん中から下は窪地で、疎水とほとんど同じ高さの湿地です。そこでは背の高い白い大きな穂と、背の低いやや小型の黒っぽい穂が混在しています。
下の写真はその混在部を拡大撮影したものですが、明らかに異なる二種類の穂が見られます。後方の白い穂が「おぎ」、前方の黒っぽい穂が「あし」です。「あし」は水辺だけでなく、「おぎ」と同じ湿地でも育ちます。水辺で育つ「あし」は大きくなりますが、湿地で育つと大きくならないそうです。そのため「おぎ」よりも背が低くなったのでしょうか。

 

 夕暮れ時、空にはまだ明るさが残っているのに、真っ暗な中で輝く「おぎ」の穂の群。まるでライトアップされているようです。なばなの里や仙台へ行かなくとも、これぞ元祖、光のページェントです。照らし出された「おぎ」たちは、受難の群衆が集まって黙々と行進しているように見えます

ロマンス・グレーのふさふさした頭髪のように長い穂が揃っておれば、風に吹かれて優雅になびき、美しく輝いて、「すすき」の穂ということはすぐ分かります。

しかし私の薄くなった頭のように、長短不揃いの白髪がまばらに生えている場合には、紡錘形や崩れた球体となり、夕陽を受けて怪しく光ります。風の無い日にはそれが直立して、冒頭の写真のように、この世のものとは思えない何とも不可思議な像となります。

 横井也有は、江戸時代の元禄15年(1702年)、尾張藩の武家の長男として生まれました。26歳で家督を継ぎ、大番頭や寺社奉行など藩の要職を歴任します。武芸に優れ、儒学にも造詣が深く、俳人としても名を成した多才の人であったと云われています。俳諧の中でも特に俳文に優れ、代表作である「鶉衣(うずらごろも)」は、横井の文章を読んで感動した太田南畝がのちに刊行した俳文集です。その中に「化け物の 正体見たり 枯れ尾花」の句が収載されています。また横井也有は、「健康十訓」を著わしたことでも知られています。健康に生きるために大切な10項目をまとめたものですが、下記の通りです。

               健康十訓
  一.少肉多菜(しょうにくたさい):肉は少なく野菜を多く食べる
  二.少塩多酢(しょうえんたさく):塩分を控え酢を多く摂る
  三.少糖多果(しょうとうたか):砂糖を控え果物を多く食べる
  四.少食多噛(しょうしょくたぎょう):腹八分目にしてよく噛んで食べる
  五.少衣多浴(しょういたよく):厚着を控え日光浴、入浴をする
  六.少車多歩(しょうしゃたふ):車ばかりに乗らず自分の足で歩く
  七.少憂多眠(しょうゆうたみん):くよくよせずよく眠る
  八.少憤多笑(しょうふんたしょう):いらいらせず明るく笑う
  九.少言多行(しょうげんたぎょう):文句ばかり言わず自ら実行する
  十.少欲多施(しょうよくたし):自分の欲を抑え他人のために尽くす

 なるほど現代にも通じる健康のために大切な秘訣ですが、江戸時代にほんとうにここまで考えられたのかなあと疑問も感じます。例えば少肉多菜と云っても、江戸時代にどのような肉を食べていたのでしょうか。少車多歩と云っても、江戸時代にどのような車に乗っていたのでしょうか。横井と関連付ける出典もなく、健康十訓は横井の作ったものではないという説もあります。後世の医師が作った訓話を横井の作としたのではないかと云うのですが、それにしても何故横井也有と結び付けられたのでしょうか。これも不思議です。

    さて病院の話題です。今回は桑名市総合医療センターの循環器センターについて、副院長でセンター長の山田典一先生に紹介していただきます。
 これまで桑名市内の循環器診療は、桑名東医療センターと桑名南医療センターとに別れて行ってまいりましたが、2018年5月の桑名市総合医療センター新病院開院からは 循環器センターとして一つにまとまり、 桑員地区の循環器診療を担っております。現在、循環器センターには11名の循環器内科医と2名の心臓血管外科医が在籍しております。また、医師の他にも、臨床工学士、看護師、リハビリスタッフ、生理検査技師などが一丸となってチーム医療を心掛けており、迅速かつ的確な診断・治療から社会復帰へ向けたリハビリまで、きめ細やかな対応を心掛けております。

循環器センターの先生方

 循環器センターの対象疾患としては、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患、心不全、心臓弁膜症、心筋症、不整脈、大動脈瘤、末梢動脈疾患、肺血栓塞栓症、静脈血栓塞栓症、肺高血圧症、下肢静脈瘤など循環器領域の広範囲の疾患を扱っております。循環器では、患者さんの生死にかかわるような緊急性の高い疾患の多いことが特徴の一つであり、時間外や休日を含め、常に緊急連絡が受けられるように循環器ホットラインを常設し、近隣の医療機関や院内での循環器疾患発症例に対して迅速に対応する体制を整えております。循環器疾患の診断につきましては、多列検出器型CTや3.0TのMRIなど診断能の高い機器を取り揃えており、さらに新病院からは心筋シンチグラフィーや肺血流シンチグラフィーといった核医学検査も可能となり、さらなる診断能の向上につながっております。
 治療につきましても、心筋梗塞や狭心症に対するカテーテル治療、不整脈に対するカテーテル・アブレーション、末梢動脈疾患や静脈疾患に対するカテーテル治療にも積極的に取り組んでおり、図に示した通り、新病院開院とともに、当センターでの冠動脈に対するカテーテル治療の件数も著しく増加してきております。さらに2018年6月からは、これまで桑員地区ではできなかった心臓大動脈手術が始まり、すでに半年間で13件の手術が施行されました。また、これまで前胸部の皮下に植え込んでいたペースメーカーと異なり、直接に心臓内に留置する最新型のリードレス・ペースメーカーの植え込みも開始しております。
 これからも地域に根付き、皆様から信頼いただける循環器の先進医療センターとして邁進してまいりますので、よろしくお願い申し上げます。

 

                                     平成30年12月
                  桑名市総合医療センター理事長 竹田 寛 (文、写真)
                                 竹田 恭子(イラスト)

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