名誉理事長の部屋令和6年9月1日付で、竹田寬先生に名誉理事長の称号が授与されました。

名誉理事長の部屋

4月 早咲き桜

-早春の冬景色に春を呼ぶ赤桃色の花盛り―

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              穏やかな早春の陽を浴びてほころぶ河津桜

 今年の冬はほんとうに寒かったですね。西日本では32年ぶりの寒さだったそうです。ペルーやエクアドル沖合いの東太平洋で海面水温が平年より低くなるラニーニャ現象の影響だそうですが、全国各地で大雪となり甚大な被害が発生しました。特に1月下旬から2月上旬にかけては気温が低く、三重県でも最低気温が氷点下の日が続きました。例年は戸外のベランダで元気に冬越しをする我が家のクンシラン(君子蘭)の鉢植えも、今年は寒過ぎて葉が全部枯れました。気温が氷点下になると耐えられないのでしょうか。慌てて室内に入れて暖かくしてやりましたが、するとすぐに緑の若葉が伸び始め、朱色の花芽も伸びてきました。君子蘭は強い植物です。何年か前にも雪を被って葉が枯れてしまいましたが、春になると見事に生き返り、若葉がどんどん伸びて来て、枯れる前より立派な姿になったことがありました。枯れても安心して見ておれる植物なのです。
 いよいよ桑名市総合医療センターの新病棟が4月に開院します。ここ3か月休載していました理事長の部屋も今月から再開です。何の花にしようかと考えていましたところ、新病院の開院を祝うのだから、やはり桜が良いだろうということになりました。しかし記事を書くのは3月ですので、染井吉野や山桜などの代表的な桜は、まだ咲いていません。そこで3月に咲く桜、早咲き桜にスポットを当てました。

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         南伊勢町河村瑞賢公園へ昇る坂道の斜面に沿って咲く河津桜の群

 3月上旬、南伊勢町の河津桜が満開だと聞いて車で出掛けました。朝からよく晴れた早春の明るい陽光が嬉しい日でした。しかし冷たい風が強く吹き、体感温度は実際の気温よりも低く感じます。午後遅く南伊勢町へ入りますと、さすが南国、常緑樹の葉の緑が鮮やかで、青い海と美しいコントラストを呈します。風も弱まり何となく景色が穏やかで和らいで見えます。南伊勢町は、江戸時代に海運と治水で功を成した河村瑞賢(1618-1699年)の生誕の地で、郊外に彼の像の立つ小さな公園があり、その近くにたくさんの河津桜が育っています。公園は小高い山の中腹にあり、そこへ登っていく坂道に差しかかりますと、坂は真ん中で「く」の字型に屈曲していますで、狭い窪地を挟んだ向こう側に、公園直前の坂の斜面を見上げるようになります。そこには、たくさんの河津桜が満開で、まさに赤桃色の花盛りです。20~30本ほどあるでしょうか。どの木の花もすべて開き切って、しかも花びら一枚として落ちない、まさに今が満開の絶頂期です。風のない穏やかな早春の午後、暖かくなり始めた陽の光を静かに楽しんでいるようです。しかしよく見ますとあたりはまだまだ冬景色です。樹々の根元には取り残されたように枯草が群れ、枯れすすきが穂を垂れます。まだ新芽の目立たない樹々は冬木立そのもので、黒く鋭いシルエットを描きます。そんな中でひときわ鮮やかに輝く赤桃色の花盛り、早く春を呼ぼうとしているのでしょうか。

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              枯草と枯れすすきの冬の野に咲く満開の河津桜

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                  冬木立の向こうは赤桃色の花盛り

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 3月の声を聞きますと、三重大学の構内では濃い赤桃色の桜が咲きます。カンヒサクラ(寒緋桜)あるいはヒカンサクラ(緋寒桜)とも呼ばれる桜で、中国南部から台湾、沖縄などに広く分布し、三重大学生物資源学部名誉教授の永田洋先生が、沖縄から苗を取り寄せて植えられたものです。大学構内の真ん中に3本ほど植えられ、毎年3月になりますと鮮烈な赤桃色の花をいっぱい咲かせて、まだ冬景色の大学構内を明るくしてくれます。

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       寒緋桜の花は釣鐘状にしか開かず、枝に沿って連なるように咲きます

 3月も半ばになりますと、少しずつ暖かくなって来ます。特に今年は、あの冬の寒さは何だったのだろうかと思うぐらい、急に気温が上がり4月上旬並みのポカポカ陽気となりました。すると桑名市内の寺町通りやなばなの里でも河津桜が咲き始めました。そこで良く晴れた暖かい日の午後、なばなの里へ行ってみました。私達は初めて入園しましたが、園内は意外と整然としていて落ち着いた雰囲気です。園の中央にある大きな池の周囲を取り囲むようにたくさんの河津桜が植えられていて、7~8分咲きというところでしょうか。風の無い穏やかな午後で、菜の花の黄色と静かに調和するように赤桃色の花を咲かせています。園内には、他にサンシュユや大輪ミツマタなどの黄色い花が満開です。春先には黄色の花が多いと云われますが、黄色は昆虫を集めやすい色だからだそうです。
 宮崎県の椎葉地方に伝わる民謡「ひえ(稗)つき節」は全国的に知られ、年配の方ならご存知の方が多いと思います。稗をつくときに歌われた仕事歌で、歌詞は、壇ノ浦の合戦で敗れて椎葉村に逃れ住み着いた平家の落人の娘鶴富と、追討に来た源氏の武士那須大八との悲恋を詠ったものです。歌い出しの有名な詞「庭のサンシュの木 鳴る鈴かけてよ・・・」のサンシュはこのサンシュユのことかと思っていましたが、どうやらサンショウ(山椒)の木が正しいようです。

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           ほぼ満開の河津桜。菜の花の黄色と見事に調和しています

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青空に黄色く映えるサンシュユは、ミズキ目ミズキ科の落葉小高木。早春の庭先でよく見掛けます。中国から朝鮮半島が原産で、江戸時代に日本に伝わりました。春先、葉の出る前に黄色の花をたくさんつけることから「ハルコガネバナ」、秋になると赤い実を付けますので「アキサンゴ」とも呼ばれます。温めた牛乳にサンシュユの枝を入れておくとヨーグルトができるそうですが、ほんとうでしょうか?

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コウゾと並んで和紙の材料となるミツマタはジンチョウゲ科ミツマタ属の低木。春先に淡黄色の花を咲かせます。枝が三本に分枝することから、この名がつきました。写真は大輪ミツマタ。

 

 

 

 

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     熊野桜の花(岡八智子さん撮影)

 最近、紀伊半島南部で桜の新種が発見され話題になっています。森林総合研究所の勝木俊雄博士らのグループが2016年より南紀地方の各地に咲く桜の調査を続けて来て発見に至ったもので、桜の新種の発見は実に約100年ぶりとのことです。熊野地方に分布しますので、仮称ですが「クマノザクラ(熊野桜)」と名付けられています。

 

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        熊野桜の花の構造

 

 

 日本の桜の分類を考える際、野生種とソメイヨシノ(染井吉野)に代表される園芸種に分けることが大切です。野生種には、ヤマザクラ(山桜)、オオヤマザクラ、カスミザクラ(霞桜)、オオシマザクラ(大島桜)、エドヒガン(江戸彼岸)、チョウジザクラ、マメザクラ、タカネザクラ、ミヤマザクラの9種と、沖縄に分布する カンヒザクラ(寒緋桜)を加えて10種あるとするのが一般的です。11番目の野生種が見つかったということになるのですが、どのような特徴を持っているのでしょうか。
 もともと熊野地方には、山桜と霞桜が生育していました。熊野桜も両者に似た性質を有しますが、異なる点も幾つかみられます。まず類似点ですが、右の熊野桜の花の模式図をご覧ください。花の付け根から伸びる細い軸を小花柄、それらを束ねる軸を花柄と呼びます。桜の野生種のなかで花柄が認められるのは、山桜、霞桜、大島桜だけですが、熊野桜にも短いながら花柄があります。一方、江戸彼岸には花柄はありません。
 

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 相違点は、開花時期と葉の形態です。熊野桜の開花は3月中旬から4月上旬で、山桜の4月中旬に比べ明らかに早く、霞桜はさらに遅いそうです。この地方で染井吉野の咲く前の3月中頃に咲いている桜を見たら、まず熊野桜と考えて良いそうです。次に熊野桜の葉は、山桜や霞桜に比べ一回り小さく、形態的にも幾つか相違があります。熊野桜には、箒を逆さにしたケヤキのような樹形を示すものもあり、かなりの大木にもなるようです。花の少ない3月に、多数の細く長い枝いっぱいに白から淡桃色の花を咲かせる熊野桜は、観賞用としてもすぐれ、早春の熊野観光の目玉になるのではないでしょうか。
 

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早咲きの桜達は、3月上旬、まだ冬景色のうちに咲き始め、やがて暖かくなって菜の花やサンシュユ、ミツマタなどの黄色い花々と饗宴します。さらに暖かくなりますと、黄色の花の連鎖は「れんぎょう」やタンポポに引き継がれ、染井吉野や山桜の咲く春本番を迎えます。

 さて桑名市民の皆様待望の桑名市総合医療センターの新病棟がいよいよ開院し、5月1日より外来診療が始まります。ほんとうに長い時間がかかりましたが、この間終始ご支援をいただきました皆様方に改めて深く御礼申し上げます。
 新病院の主な特徴について概説致します。

    • ■ 新病院は入院棟(10階建)と外来棟(5階建)から成り、両棟を上空通路で連絡します。新入院棟の病床数は321床ですが、平成30年末に完成予定の改修棟に79床が開設され、計400床になります。1、2階はほとんど駐車場で、津波などの災害に備えます。
    • ■ 入院棟では、3、4、5階は手術室や検査室、救急病床、6階は産婦人科と小児科病棟ですが、新生児センターなどを拡充して周産期や新生児医療に力を入れます。7階から9階の一般病床は、臓器別にセンター化された配置になります。例えば脳卒中センターでは、脳神経外科医と脳神経内科医が一緒になって脳卒中などの患者さんを診ることにより、より精度の高い効率的な診断と治療が可能になります。同様に循環器センターや消化器センターも設置され、さらにリウマチや腎臓病などの慢性疾患の診療にも力を入れます。
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      ■ 常勤医師数は当初より40名ほど増えて約120名になり、診療機能が拡充されます。
      ■ 近隣の医療機関や診療所と協力し合いながら、桑員地区の急性期医療を担う中核病院としての役割を果たします。特に救急医療、周産期医療、小児の救急や慢性疾患の診療の充実に努め、災害拠点病院、地域医療支援病院の認定をめざします。
      ■ 桑員地区で初めて導入される放射線治療や核医学診断装置、さらに高精度のMRI装置などの最新鋭の高度医療機器を最大限活用し、「がん」の治療や脳卒中、認知症、心筋梗塞などの診療の向上に努めます。
      ■ 患者給食の改善やがんサロンの充実、診察までの待ち時間の短縮など、患者さんが安心して療養できるような院内環境の整備に努めます。
      ■ 三重大学附属病院と新たな人事交流制度を締結するなどして緊密な連携を保ち、相互のスタッフの教育や診療レベルの向上に努めます。

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            ようやく完成した桑名市総合医療センターの新棟手前が外来棟、奥が入院棟

 

平成30年4月
桑名市総合医療センター理事長 竹田 寛   (文、写真)
竹田 恭子 (イラスト )

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