名誉理事長の部屋令和6年9月1日付で、竹田寬先生に名誉理事長の称号が授与されました。

名誉理事長の部屋

11月 秋の野芥子(アキノノゲシ)

-秋の野の少し控え目な道標(みちしるべ)―

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                                雲の多い秋空の下でやさしく咲き揃う秋の野芥子

 今年の10月は、連日のように曇や雨が続きました。1か月のうち晴れたのはわずか10日ほどで、残り20日は曇か雨、昨年の10月は20日ぐらい晴れたということですので、全く逆の結果になりました。おまけに第3、第4の週末には、台風21号、22号が立て続けに到来し、三重県にも甚大な被害をもたらしました。被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。そんな訳でさんざんな10月でした。本来なら高い秋晴の下、爽やかな風に色とりどりの美しい花々が快く揺れる、一年で最も美しい季節のはずなのですが、何か大きな損をしたような気がします。
 先月エノコログサの写真を撮っている時、10月は秋の野や田圃の畔に咲く小さな野草を特集しようと決めていました。と云いますのも、こんな光景を目にしたからです。彼岸になりますと、彼岸花が時を計ったようにいっせいに咲き、消えてゆきます。

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    露草を背景に咲く秋の野芥子

それとほぼ同じ頃にエノコログサも盛りを迎え、彼岸明けとともに勢いは弱まります。 するとその隣では、早くもセイタカアワダチソウの黄色い若芽が伸び始めています。やがてあたり一面すっかり席捲されてしまう、そんな不安を感じながら、田圃の畔や小川の堤に目を凝らしていますと、あれあれ、赤や黄、青や白のいろいろな小さい花がたくさん咲いています。自転車で走っていると見逃してしまいそうなぐらい小さな花です。ひしめき合い、競い合うようにして咲いています。セイタカアワダチソウが来る前に、精いっぱい咲いておこうとしているのでしょうか。必死になって咲いている、そんな健気な姿が嬉しくて今月取り上げようと思ったのです。ところが連日の雨と曇です。しかも週末に天気が悪く、なかなか写真を撮ることができません。少し焦りましたが、それでも中旬のある日、曇天ながら何とか撮影することができました。秋の田圃の畔を歩いていて、まず目につくのはアキノノゲシ(秋の野芥子)です。周りに較べて背が高く、ポツンとひとり立っています。近寄って行きますと、いつもこちらを向いていてくれます。花びらのクリーム色というか薄黄色に惹かれます。派手に自己主張することなく静かに微笑んでいる、そんな控え目な感じに好感を抱きます。

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春によく見かける野芥子

     春によく見かける野芥子

          鬼野芥子

 

 秋の野芥子はキク科アキノノゲシ属の野草で、菊の仲間です。主に春に咲くノゲシ(野芥子)(キク科ノゲシ属)に対して秋の野芥子と呼ばれます。同じ仲間のオニノゲシ(鬼野芥子)もよく見かけますが、見るからに葉は硬くて鋭い棘がたくさんあり、触ると痛いのが特徴です。野芥子にも棘はありますが、触っても痛くありません。
 野芥子も鬼野芥子も花の形はタンポポに似ており、秋の野芥子と異なりますが、蕾の形がよく似ています。

 

 

 秋の野芥子の属するキク科の花は、共通して頭状花序と呼ばれる構造を持っています。これは小花と呼ばれる小さな花が集合して花全体を構成するものです。小花には、平べったい花弁1枚から成る舌状花と花弁が筒状の筒状花があり、どちらにもちゃんと「おしべ」と「めしべ」が付いています。花の種類により構成する小花が異なります。

                                     「あざみ」         ・・・筒状花のみ
                                     「タンポポ」「秋の野芥子」 ・・・舌状花のみ
                                     「ひまわり」        ・・・舌状花と筒状花

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      舌状花の構造

 

 秋の野芥子の拡大写真(上)をご覧ください。黒い縦縞の入った「おしべ」の中央部より「めしべ」の花柱が伸び、柱頭は先端で二分しています。「おしべ」先端の花柱周囲には、黄色い葯がたくさん付着しているのが分かります。

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 秋の野芥子は道端の所々に立っています。背が高いものですから遠くからでも目立ち、「こちらへおいで」と手招きして呼んでいるようです。近寄りますと、「この下にたくさん花が咲いていますよ」と教えてくれます。そこで周囲を見渡しますと、確かに色とりどりの小さな花がたくさん咲いています。さながら秋の野の道標(みちしるべ)なのです。
 それでは、それらの花の中から幾つかを選んで紹介しましょう。

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ヨメナ(嫁菜)(あるいはノコンギク)

秋の野菊を代表する野草で、清楚な薄紫色の花弁が見る人の心を和らげます。ヨメナとノコンギクの区別は難しく、この写真の花は ヨメナと思われますが、間違っているかも知れません。

 

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イヌタデ(犬蓼)、赤まんまと呼ばれれる野草です。秋の野を地味ながら美しい赤色に染めます。

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      サクラタデ(桜蓼)

 
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キツネノマゴ(狐の孫)と花の拡大写真(下)。コウモリの顔のように見えます。

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秋の野は、小さいけれど色鮮やかで美しい野草で賑やかです。

ジュズダマ(数珠玉)

       ジュズダマ(数珠玉)

 
ミゾソバ(溝蕎麦)

   ミゾソバ(溝蕎麦)

 
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        10月12日撮影 

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        10月31日撮影

 

 このようにして10月は中旬頃まで小さな野草達の写真を撮っていました。その後、台風のため野に行けず、2週間のブランクができました。2度目の台風が過ぎて数日後、久し振りに秋晴れとなり、やっと出掛けることができました。台風の影響で、多くの野草は倒れたり折れたリ流されたりしていましたが、それでも復活して咲き始めています。秋の野芥子も大きな枝が折れて小さくなっていますが、元気に咲いています。その花を見ますと、以前とは少し違って見えます。上の2枚の写真を較べてください。左は10月12日、右は31日に撮影したものです。31日に撮影した方が、花びらの色が濃くなり黄色くなっています。中央部分の黄色と比較しますとよく分かります。どの花を見てもこのように花弁の黄色が濃く見えるのです。トレードマークだった花びらのクリーム色がすっかり黄色くなっています。これはどういうことでしょうか。何か影響する因子でもあるのでしょうか。この2回の撮影の間に変化したものは何か、考えてみました。一つは天気の違いです。12日は曇天、31日は秋晴れでした。陽の光の強さが色の変化をもたらしたのでしょうか。しかし普通、黄色の花は陽の光が強いと白っぽく、弱いと黄色く見えるはずで、どうも逆のように思われます。
 次に考えたのが気温の変化です。10月から11月初めまでの津市における1日の最高気温と最低気温の変化をグラフにしてみました。
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花びらがクリーム色の10月12日頃までは気温が高く、残暑と言っても良いのかも知れません。その後2度の台風を経て気温は徐々に下がり、花びらが黄色くなった31日の最低気温は10度を下回っています。秋の野芥子の花びらは、気温が下がると黄味を増すのでしょうか。

虫の声

                                                                                                文部省歌(作詞、作曲不詳)

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あれ松虫が、鳴いている
ちんちろちんちろ、ちんちろりん
あれ鈴虫も、鳴きだして
りんりんりんりん、りいんりん
秋の夜長(よなが)を、鳴き通す
ああおもしろい、虫のこえ

きりきりきりきり、こおろぎや
がちゃがちゃがちゃがちゃ、くつわ虫
あとから馬おい、おいついて
ちょんちょんちょんちょん、すいっちょん
秋の夜長を、鳴き通す
ああおもしろい、虫のこえ                                                秋の夜長を鳴き通す賑やかな虫達

                                                                          (左から順に、松虫、鈴虫、くつわ虫、馬おい)

 小学校で習った文部省歌で、私達の世代はもとより若い人達の中にも覚えておられる方がいると思います。ここに出てくる秋の虫は、昔よく鳴き声を耳にしたものばかりです。松虫や鈴虫は、澄んだ高い声で短く鳴きます。きりぎりすも馬おいも、静かに秘めるように鳴きます。秋の夜の静けさを見事に演出します。しかしくつわ虫は別で、けたたましく長時間鳴きます。近くで聞きますと、まるで工場の騒音のようです。家でくつわ虫を飼っていた人が、その鳴き声のうるさいことに耐えられず庭へ出したら近所から文句が来たという話もあります。私達の中学や高校時代には、夏や秋の夜には野原へ出掛け、月明りの下でどこからともなく聞こえて来る虫の声を楽しんだものでした。喧噪なくつわ虫の鳴き声さえ親しみを感じたものでした。最近秋の虫の鳴き声を聞かなくなりました。虫がいなくなったのでしょうか、あるいは私達が野原へ行かなくなったせいでしょうか。
 文部省歌「虫の声」は作詞・作曲不詳となっています。他にも「さ霧消ゆる湊江(みなとえ)の・・・」で始まる「冬景色」、歌い出しが「燈火(ともしび)ちかく衣縫(きぬぬ)ふ母は・・・」の「冬の夜」、さらに「はとぽっぽ」なども作詞・作曲不詳です。誰もが口ずさむ文部省歌の中に、なぜ作詞・作曲不詳の曲が幾つもあるのでしょうか。その理由を調べてみますと次のようでした。戦前までの文部省は、作詞者や作曲者に名前は一切公表しないという契約で高額な報酬を支払って曲作りを依頼したそうです。「国」が作った歌であるということを強調したかったのだそうです。戦後、検定教科書の時代になって作曲者や作詞者を明らかにしなければならなくなりましたが、調べても分からない曲が、そのまま作詞・作曲不詳ということになったそうです。
 今年の10月は2度も台風が到来したり雨の多い天候で、虫達もたいへんだったことでしょう。さらに11月に入って急に冷え込んで冬支度が早くなり、虫達も自分自身の美しい声に磨きをかける時間が無く、虫の鳴き声を明瞭に聞き分けることも難しかったかも知れません。それこそ作詞・作曲だけでなく、歌い手も不詳だったのでしょうか。

 さて病院の話題です。新病棟の開院まであと6か月となり、引越しの準備や新しい医療機器の導入など俄かに慌ただしくなって参りました。そこで今回は新しく導入されます3T(テスラ)のMRI装置と、最新鋭の超高速CT装置をご紹介します。
 MRI画像の鮮明さを決定する因子として最も大切なのは、装置の磁場の強さです。磁場強度が高いほど画像は鮮明になります。

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磁場の強さを表す単位がT(テスラ)で、通常の検査に用いられるMRI装置の磁場は1.5Tですが、今度新しく導入される装置は3Tです。得られる画像は鮮明で細部まで細かく描出され、脳神経疾患の診断には欠かすことができず、眼科や耳鼻科領域、骨軟部、生殖器などの領域でも威力を発揮します。また新しい撮影方法が開発され、今まで得られなかった情報を基にした画像も作られるようになりました。右の写真はその一例で、大脳の中を走行する神経線維を描出したものです。脳梗塞とか脳腫瘍などにより神経線維すなわち神経伝達路が破壊されていないかどうか調べることができます。新病院では、3Tと1.5Tの2台のMRI装置が稼働します。
 また短時間で精細な画像を撮影できる超高速CT装置も導入されます。どれぐらい早いかと云いますと、肺全体のCT断層像をわずか0.6秒で撮像することができます。1秒もかからずに肺全体のCT検査が終わるのです。今や肺がん検診はレントゲンではなくCTで行う時代ですが、これぐらい早ければレントゲン写真と時間的に変わりません。また撮影時間が短いということは、心臓など動きの激しい臓器の撮影にも利点がありますし、体動があり息止めもできない乳幼児においても、眠らせることなく撮影をすることができます。しかも最近の撮像技術の改良により、被ばく量もかなり軽減されています。新病院では、この装置以外に診断用と放射線治療用のCT装置それぞれ1台ずつの計3台のCT装置が稼働します。
 新規に導入されます放射線治療装置や核医学装置(SPECT)に加えて、MRIやCTの最新鋭機が稼働します。これらの装置を駆使して、より迅速で正確な診断と治療を実現したいと願っています。一生懸命頑張りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
       (資料をご提供いただきました日本シーメンス社様に深謝致します)

平成29年11月
桑名市総合医療センター理事長 竹田 寛  (文、写真)
竹田 恭子 (イラスト)

 

 

 

 

 

 

 

 

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