名誉理事長の部屋令和6年9月1日付で、竹田寬先生に名誉理事長の称号が授与されました。

名誉理事長の部屋

8月 カンゾウとキスゲ

-かんぞう通りに集う紛らわしい仲間たち-

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                    白い橋のある里山を背景に日光キスゲ(?)と思われる黄色い花が満開です

 東海地方では6月7日に梅雨入りしましたが、その後晴天が続き、梅雨らしくなったのは2週間ほどしてからでした。一方、梅雨明けは7月19日ごろと発表されましたが、こちらも2週間近く経った今も、雲の多いうっとうしい日が続いています。さらに福岡や大分、新潟、秋田などでは大雨による甚大な被害が続出しています。「ほんとうに梅雨は明けたのだろうか?」と疑いたくなります。先日のNHKニュースでは、梅雨明けに関しては毎年9月に再検討するそうで、この5年間では4回も変更されたそうです。したがって今年の梅雨明けも9月の再検討で後へずれるかも知れません。それだけ梅雨明けの判定は難しいということですが、しかし夜から朝にかけての蒸し暑さ、湿気には耐えられません。子供の頃習ったモンスーン気候と言葉を改めて思い知らされます。欧米では、夏、日向では強烈に暑くても木陰へ入れば高原のように涼しい国がたくさんありますが、そのような地方から来られた観光客の皆さんは、余りの湿気にさぞかし閉口されていることでしょう。
 そんな梅雨空の下、自宅の近所には「ゆり」に似た黄や朱色の美しい花が咲き、行く人の目を楽しませてくれる小道があります。私がいつも自転車で走るコースの途中にあり、広大な田園地帯の縁を巡り、稲田からの水を集めて走る美濃屋川と云う小川に沿った道です。全長は700mほどですが、下流側の半分は草で覆われ、人の歩く幅だけ草が刈り取られています。

一方上流側の半分は、車1台が通れるほどの舗装道です。数年前より梅雨時になると、その道に沿って「ゆり」に似た様々な花が咲き、「カンゾウの仲間かな?」と気にはなっていました。今年は花の咲き始めに気づいたこともあって、ゆっくり写真を撮ることにしました。下流側の草の小道に沿って、何種類かの桜や「あおもじ」「はまぼう」「むくげ」など、いずれも余り大きくない木が立ち並び、その木陰に数種類のカンゾウの花が咲きます。また団地へ少し入っ た空地には、ユウスゲ(夕スゲ)が育っています。これらの植物は、団地に住む方が植えられたとのことです。一方、上流の舗装道の脇には、カンゾウの近縁種であるニッコウキスゲ(日光キスゲ)に似た花が群れを成して咲きます。それで私はこの道を「かんぞう通り」と呼ぶことにし ました。
カンゾウは漢字で萱草と書き、鎮痛や解毒作用を有する漢方薬のカンゾウ(甘草)(マメ科カンゾウ属)とは異なります。カンゾウには、ノカンゾウ(野カンゾウ)、ヒメカンゾウ(姫カンゾウ)、ヤブカンゾウ(藪カンゾウ)などの種類がありますが、いずれもユリ科ワスレグサ属の植物です。

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ワスレグサとは、中国でこの花を見ると余りの美しさに憂さを忘れるという言い伝えに由来するものです。このうち藪カンゾウは中国から渡来したものですが、他は古くから日本に育つ野生種だそうで、園芸研究家の柳宗民氏によれば、日本はカンゾウ王国と云えるそうです。
 一方同じユリ科ワスレグサ属の植物には、日光キスゲや夕スゲなどキスゲの仲間があります。ワスレグサ属の花のうち、夕スゲは夜開いて朝萎みますが、他は朝開いて夜萎む一日花です。これらの植物は、八重咲である藪カンゾウを除き、図鑑などと照らし合わせてみても、花や葉の色や形が似ているようで微妙に異なり、その種類を正確に同定することはしばしば困難です。
 また分類学上でも、多少の混乱があるようです。日光キスゲはゼンテイカ(禅庭花)とも呼ばれますが、広義のゼンテイカ群には、同じキスゲの仲間である夕スゲのほか、カンゾウの仲間の姫カンゾウも入るそうです。
 さらに日本のカンゾウやキスゲの美しさに魅せられた欧米人が、品種改良して園芸種ヘメロカリスを開発しました。これにも微妙に色や形の異なる夥しい数の種類があり、それが日本へ逆輸入されて広まっていますので、ますます混迷の度合いを深めています。
 これからかんぞう通りに沿って咲くカンゾウやキスゲの仲間を、下流から順に紹介致しますが、植物の種類を正しく同定できているかどうか自信ありません。間違っていましたらお許しください。それでは始めます。

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姫カンゾウ

 姫カンゾウは、他の仲間より一足早く6月上旬に咲き始めます。野カンゾウや藪カンゾウに比べ小型なのでこの名が付きました。 花茎は40cm前後、葉の方が長いと云われます。ただしここに咲く姫カンゾウは、成書の記載より やや大ぶりで、葉と花茎の長さの関係も一定せず、種類が異なるのかも知れません。ただ花の咲く時期の早いことだけは間違いありませんが・・・。

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(実は本稿を書き終えた頃、偶然、この姫カンゾウに似た花を植えられた団地にお住まいの方にお会いしました。前述の夕(ユウ)スゲを育てられている方です。その方のお話では、どなたかにいただいた株だそうで、園芸種(ヘメロカリスの一種?)だったように思うとのことでした。ずばり不安が的中しました。突然のどんでん返しですが、しかし初めに書いた文章はそのまま残すことにしました。私の迷いを素直に記すことで、この花を正しく同定することが如何に難しいか、ご理解いただけるように思ったからです。)

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野カンゾウ、紅カンゾウ

 花の色は橙色で花弁の中央を縦に走る白い線が入っています。特に花弁の色が紅いものを紅カンゾウと呼びますが、緑の草叢(くさむら)に鮮烈な深紅の花びらを見つけた時には、ハッと驚かされます。
(ただしこれも植えられた方のお話では、園芸種だったような気がするとのことでした)

 
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        野カンゾウ

 
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           紅カンゾウ

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藪カンゾウ

 八重咲きですので、すぐ分かります。やや濃い橙色の花びらがくしゃくしゃになって咲きます。「おしべ」はあるのですが、実をつけることはありません。田圃の畔などに数株集まって咲いているのを、よく見掛けます。中国原産ですが、日本全国に分布しているそうで、種もできないのにどのようにして拡がっていったのか、不思議なのだそうです。

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夕(ユウ)スゲ

 キスゲの仲間の夕スゲで、単にキスゲとも呼ばれます。夕方開花して朝閉じる一日花です。人間の背丈もあるほど真っ直ぐに伸びた長い茎の先が数本に枝別れして、芳香のあるレモンイエローの花をつけます。この花は、育てられているご本人からお墨付きの正真正銘の夕スゲです。

 

 

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  日光キスゲ(あるいは浅間キスゲ)

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 最後に日光キスゲです。川上の舗装道の川に面した側に、15mほどの長い群を作って咲いています。道の反対側にあるお宅のご主人が植えられたそうですが、何の花かお聞きしますと「友人から日光キスゲか浅間キスゲの株を貰って植えた」とのことでした。花の色は一部朱色もありますが、大半は黄色です。尾瀬沼に咲く日光キスゲは朱色がかっていますので、花の色から判断すると日光キスゲではないのでしょうか? また浅間キスゲは夕(ユウ)スゲの仲間ですから、花は夜開くのでしょうか?すると昼間咲いているここの花は、やはり日光キスゲなのでしょうか?
 何が何だかさっぱり訳が分からなくなって来ました。

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 今年もまたお盆がやって来て、静かに故人を偲ぶ季節となりました。この7月には、私達に広く親しまれた二人の方が亡くなられています。一人はの日野原重明(1911-2017)先生で、享年105歳でした。100歳を越えても現役の医師として診療を続け、患者を中心とした医療の実現や終末期医療の充実に努め、医学や看護学教育の発展に大きな功績を残されました。まさに臨床家として教育者として私達医師の大先輩でした。
 先生は早くから予防医学の重要性を唱え、1954年に聖路加病院内に民間初の「人間ドック」を開設されました。また、それまで成人病と呼ばれていた脳卒中や心筋梗塞などの疾患を、これらの病気を予防するには生活習慣の改善が大切だから「生活習慣病」と呼び改めようと提言しました。今では成人病より生活習慣病という言葉の方が一般的になっています。
 さらに音楽にも造詣の深かった先生は、認知症などの治療に音楽を取り入れる音楽療法の発展にも尽力されました。さらにアメリカの教育学者レオ・ブスカーリア(1924-1998)が命の大切さを著した絵本「葉っぱのフレディいのちの旅」を基にミュージカルを企画・原案し、アメリカ公演まで行っておられます。著書には大ベストセラーとなった『生きかた上手』をはじめ夥しい数があり、2005年には文化勲章を受章されました。先生は、月に2度小学校へ出向かれては10歳前後の子ども達を相手に「いのちの授業」を生涯続けられました。先生が小学生たちに訴え続けたのは、命の尊さです。先生の言葉を引用します。
「命はなぜ目に見えないか。それは命とは君たちが持っている時間だからなんだよ。
死んでしまったら自分で使える時間もなくなってしまう。
どうか一度しかない自分の時間、命をどのように使うかしっかり考えながら生きていってほしい。さらに言えば、その命を今度は自分以外の何かのために使うことを学んでほしい。」
もう一人の方は、79歳で亡くなられた平尾昌晃(1937-2017)氏です。平尾氏はロカビリー歌手としてデビューしましたが、20歳の頃、自ら作曲した「星は何でも知っている」「ミヨチャン」が大ヒットし、人気歌手となりました。

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          瀬戸の花嫁

ちょうど私達が小学校高学年の頃で、夕方通っていたそろばん学校のラジオでいつも流れていました。その甘く切ないメロディは小学生の私にも胸がキュンとなるような感じがしたことを覚えています。その後も作曲家として活躍されていましたが、30歳の頃結核のため信州の病院で手術を受けます。この時の1年間の療養生活が、後の作曲家としての活動の原点となり、数多の名曲を創りながら、様々な施設を慰問してチャリティ・コンサートを続けられました。そして誕生したのが「瀬戸の花嫁」で、誰もが口ずさむ国民的歌謡になっています。

 日野原先生は医療を、平尾氏は音楽を介して、国民の幸福のために尽力されました。まさに自分の命の時間を他人の幸福のために捧げられたお二人でした。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

 

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 さて病院の話題です。今回は、新病院で新しく導入される核医学検査装置についてお話します。核医学検査とは、アイソトープを使って体の中の様々な臓器の血流や機能を調べ、病気の診断をする検査です。例えば脳の血流を調べることによって脳梗塞や認知症の診断ができますし、心臓の血流を調べることにより心筋梗塞や狭心症の診断に役立ちます。右の写真をご覧ください。急性脳梗塞の患者さんのMRI画像と核医学(SPECT)画像です。左大脳半球(画像に向かって右側の大脳)に病変があるのですが、MRI画像では、大脳半球の左右差は良く分かりません。核医学画像では、脳血流の多い部位から順に、白、赤、黄、緑、青、黒の色で示されます。脳血流が低下している部位は、青か黒で示されるのです。本例の核医学画像では、右半球(向かって左側)は白く血流が十分あるのに対し、赤矢印で示される左半球は青色で、高度に血流の低下していることが示されます。このように核医学画像では、脳血流の低下をCTMRIよりも早く検出することができ、脳梗塞の早期診断に役立ちます。また核医学検査ではパーキンソン病や  アルツハイマー病などの特殊な病態を調べることもできます。核医学検査には、SPECT検査のほかに、「がん」の診断や「がん検診」に用いられるPET検査があります。
 

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三重県の各医療圏における核医学検査装置を有する医療施設の分布

 核医学検査は、CTMRIほど一般には知られていませんが、日常臨床の場において他の検査法にはない確固とした役割を有し、全国のほとんどの総合病院には整備されています。左図をご覧ください。
三重県内の二次医療圏における核医学検査装置を有する病院の分布を示したものです。ほとんどの医療圏において複数の施設に核医学検査装置が導入されていますが、桑員地区だけには1施設もありません。以前にお話し致しました放射線治療装置と同様に、桑員地区には核医学検査装置が1台もないのです。これでは脳卒中や認知症、心筋梗塞などの診断に支障を来します。新病院では、ようやくその装置が導入されます。私は長年核医学を専門にして参りましたので、当面私が検査を担当させていただきます。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

平成29年8月
桑名市総合医療センター理事長 竹田 寛   (文、写真)
竹田 恭子 (イラスト )

 

 

 

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