名誉理事長の部屋令和6年9月1日付で、竹田寬先生に名誉理事長の称号が授与されました。

名誉理事長の部屋

6月 ちがや(茅萱)

―緑の風に輝く白い穂、パステル・カラーの野の光景―

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               畔に伸びる「ちがや」の白い穂

 桑名市や三重県にとって今年の春は、何時になく緊張し慌ただしい日が続きました。サミットが開かれたからです。桑名市では4月22日から28日までジュニア・サミットが開催され、G7各国から15~18歳までの青年が男女2名ずつ計28人集まりました。貧困や気候変動など子供に関連するテーマで議論が行われ、高校生レストランで有名な相可高校など県内各地や東京都の諸施設への視察が行われました。次代を担う若い人達が国境を越えて話し合い、体験を同じくするということは、この上なく貴重なことであったと思います。
 月が替わり5月26、27日の両日には、志摩市賢島の志摩観光ホテルにて伊勢志摩サミットが開かれました。心配されました天気も、一日目は曇天ながら時々薄日が射し、伊勢神宮を訪れた各国首脳の穏やかな表情が印象に残りました。二日目は午後より天気は回復し、首脳宣言も無事発表され、テレビのニュースで見る限り終始和やかな雰囲気のうちに会議は進行したようです。そして何よりの圧巻は、会議終了後速やかに賢島を後にし、現職のアメリカ大統領として初めて広島を訪問したオバマ大統領です。昨日の雨が嘘のようによく晴れた夕刻、陽の傾いた平和記念公園へ到着したオバマ大統領は、安倍首相と並んで原爆記念碑へ献花し、「だから私達は広島に来る」という歴史的な名演説を行いました。演説は「71年前、雲一つないよく晴れた朝、空から死が降って来て、世界が一変した」で始まり、歴史上幾多となく繰り返されて来た戦争の悲惨さ、犠牲となった数多の人々への哀悼、核保有国として核廃絶に向けた決意などを静かながら力強い口調で語り、17分にも及びました。

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終了後、被爆者代表の坪井直さん(日本原水爆被害者団体協議会の代表委員)と握手をしながら言葉を交わし、続いて自身も被爆者で、被爆した米兵捕虜の調査を続けて来た森重昭さんとはお互い抱き合いながら言葉を掛けました。その感動的なシーンは、見ていて思わず目頭が熱くなりました。その後すぐオバマ大統領は帰国の途に就きましたが、サミットおよび関連会議のすべてがテロや混乱もなく無事終わり、ほっと安堵しています。私が毎日乗る近鉄電車の車内や駅のプラット・ホームでもサミットが終わるまで、ものものしい警備体制が敷かれていましたが、それも今は解け、桑名市にも三重県にも元の平静が戻り、季節は何時の間にか夏を迎えていました。

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         風に吹かれる「ちがや」の白い穂。風のうねりが見えるようです

 サミットの始まる少し前の頃からでしょうか、郊外の田圃の畔や道路の脇などには、「ちがや(茅萱)」の白い穂が群をなすようになりました。

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天気の良い日、狐の尻尾のような白い穂は、サーっと吹き抜ける五月の風を受けてざわめくように揺れ、陽の光を反射してキラキラ輝きます。多数の穂がいっせいに傾き、鮮やかな白銀色の光を放つのです。その様は群泳する若鮎のようであり、躍動的な美しさに驚かされます。

 

 

 

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小川にかかる橋と風に吹かれる「ちがや」の白い穂

 

 
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若い花穂

 
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老いた花穂

 

 

「ちがや」はイネ科の多年草で田の畔や草地、道路脇など日本全国どこにでもみられます。漢字では「茅萱」ですが、「茅」とは「かや」とも読み、「すすき」や「ちがや」など古くから屋根葺きの材料として利用されてきたイネ科植物の総称です。「ちがや」は草丈60cmぐらい、葉は「すすき」に似てますが、それほど固くなく簡単に手でちぎれます。初夏に白い光沢のある毛の密生した穂状の花をつけ、花穂と呼ばれます。

 

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 春先、まだ葉の鞘(さや)に包まれて表に出ていない新しい花穂をツバナ(茅花)と呼び、食べることができます。私も子供の頃食べたことがありますが、ほんのり甘かったように記憶しています。若い花穂は白い毛が軸に密着しているために細く、なかに「おしべ」の葯と「めしべ」の柱頭が多数みられます。時間の経過とともに花穂は毛羽立って来て太くなります。その中では、蜘蛛の巣の絹糸のような綿毛をつけた肌色の種子(果実)がどんどん育ち、やがて風に乗ってどこかへ飛んでいきます。    

 

     若い花穂の拡大写真
黄色のふっくらした若い葯と、赤紫色のギザギザしたブラシのような「めしべ」の柱頭

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老いた花穂の拡大写真。左は白い綿毛の中で増える肌色の種子(赤矢印)。残った柱頭(黄矢印)と
やせ細った葯(緑矢印)もみえます。右は蜘蛛の巣のように綿毛を拡げ、今にも飛び立ちそうな種子。      

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水草の浮かぶ水田の畔では、スイバの穂の赤と、野草の葉の緑や黄緑が絶妙のバランスで溶け合い、それに「ちがや」の穂が白いアクセントとなって調和しています。さながら印象派の油彩絵画を見るようです。

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さらに青紫の小さな花が点在し、色を添えます。

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「ちがや」の穂は、白いパステルか、油絵具をつけた筆で、  シュッ、シュッと直線を引くように描かれています。

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夕陽に輝く「ちがや」の白い穂。光の方向や加減によって、様々な色に光ります。
右の写真では、「ちがや」の穂はベージュ色に輝き、その右にあるスイバの穂は、光に透けて赤茶色の美しいシルエットを描いています。

 

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「ちがや」の穂は青白く輝き、スイバの穂はぼんやり光る赤桃色のランタンのようです。

 

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夕陽を受けて「ちがや」の穂は、一面ピンク色に輝いています。

 

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風に吹かれる老いた穂。若い穂では颯爽として若鮎のようですが、こちらは私達のようなメタボ
の中高年男性が、揃ってエアロビクスに励んでいるようで、涙ぐましくもほほえましい光景です。

 「ちがや」は万葉集にも登場するぐらい古くから日本人に親しまれて来ました。五月の子供の節句に食べる「ちまき(粽)」は、平安時代に中国から伝わりましたが、笹の葉で包んだもち米やうるち米を蒸して作ります。元々は「ちがや」の葉で包んだため「ちまき」と呼ばれるようになったとのことです。

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 毎年6月の最後の日(30日)全国各地の神社で行われる「茅の輪くぐり」も、「ちがや」にちなんだ伝統行事で、吉田兼好の「徒然草」にも登場します。日本神話に基づく伝承で、古くから毎月の末日にはお祓(はら)いをして身を清め、清々しい気持ちで次の月を迎えようとする風習があり、これを晦日祓(みそかはらい)と云います。特に6月と12月のお祓いを大祓と呼び、6月を夏越しの祓(なごしのはらい)、12月を年越の祓(大晦日)と云って、現在でも様々な行事が行われます。夏越しの祓は、水無月祓(みなづきはらい)とも云われますが、「ちがや」で作った大きな輪、茅の輪をくぐってお祓いをし半年間の穢れを清めることにより、暑い夏を健やかに過ごせると云われます。桑名市内では今年も桑名宗社(春日神社)で6月30日(木)午後3時から開かれるそうです。是非お出掛けください。

 さて病院の話題です。岩田加壽子管理栄養士を中心とする栄養管理部では、日頃、患者給食を美味しく召し上がっていただくために様々な取り組みを行っています。今回のジュニア・サミットおよびサミットでも、その開催を記念して患者給食に特別メニューを企画しました。

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    ジュニア・サミット食

 まず4月26日東医療センターではジュニア・サミット開催に合わせて、万国旗を立てたチキンライス、ハンバーグ、海老フライなど、お子様ランチ風の昼食を供しました。
 また5月27日の昼食には、東および西医療センターにて、伊勢海老のコキール、松阪牛のすき焼き、伊勢芋の天ぷら、答志島わかめの吸物、桑名のあさりしぐれを添えた赤飯など、県内産の食材を揃えた「サミット食」を準備しました。入院患者さんにも、私達の故郷で歴史的なイベントが開催されていることを実感し、ともに喜んでいただきたいとの想いからの企画です。もちろん予算やカロリーの制限があり、量的には十分とは云えませんでしたが、幸い患者さんには好評でした。他にも様々な取り組みを行っています。例えば尾鷲港から直送の魚、嬉野トマト、伊勢若松の新海苔、南紀の柑橘類、県内農家産の新鮮野菜、県内産大豆製の豆腐など、地域の美味しい食材をできるだけ用いるようにしています。

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また桑名の味シリーズとして、歌行燈のしっぽくうどん、桑名シティ・ホテルの桑名カレー、串まんの串カツなど、市内料理店の有名料理を月一回メニューとして加えています。

これらの料理は、それぞれのお店のシェフや料理長さんから直接味付けなどの指導を受け、患者給食の献立として良いという許可をいただいたものです。

 

 

 

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サミット食とその新聞記事(中日新聞 2016年5月25日)

さらにしぐれ肉巻おにぎりやしぐれの出汁を用いた焼うどんなど桑名B級グルメにも挑戦しています。
 入院患者さんにとって一番の楽しみは食事です。食事が美味しくなることで、平板な入院生活にも潤いが生まれ、治療に臨む意欲も湧いてきます。栄養管理部のスタッフ一同、今後もさらに患者給食を充実させていきたいと張り切っています。どうぞよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

 
 
 

 

 

 

 

桑名市総合医療センター理事長 竹田 寛(文、写真)
竹田恭子(イラスト)

 
 

 

 

 

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