名誉理事長の部屋令和6年9月1日付で、竹田寬先生に名誉理事長の称号が授与されました。

名誉理事長の部屋

2月:青い麦畑

―ウクライナ通信(2):青空の下、広大な麦畑の拡がる美しい国です―

1月の里山風景。冷え冷えとした空気の中に、黄緑色の麦畑を見つけますと、ほっとして嬉しくなります。耕されたばかりの田圃には、土が黒々と光ります。その向こうの田圃は海老茶色していますが、休耕田に拡がったチガヤの紅葉によるものでしょうか。

 新型コロナウイルス感染症も、58日とうとう5類感染症に変更され、インフルエンザ並みの扱いとなりました。それにつれ種々の行動制限も大幅に緩和され、今年のゴールデンウイークの行楽地は、どこも観光客でごった返し、外国人旅行客もどっと増え、久しぶりに賑やかさを取り戻しました。いろいろなイベントも3年ぶりに復活し、私たちの周りも急に慌ただしさを増して来たような気がします。今後、新型コロナウイルスの新しい強毒な変異株が現れない限り、昔の日常が戻って来ます。これはほんとうに嬉しいことですが、ただ今まで何度も繰り返していますように、高齢者、特に70歳以上の方はくれぐれもご用心ください。スーパーや電車の中など、不特定多数の人の集まる場所へ行かれる場合には、当分の間マスクを着用してください。6回目のワクチン接種も必ずお受けください。それが自分の身を守る一番大切な方法なのですから。

 今回も引き続き、ウクライナ通信をお届けします。私たちにあまり馴染みのない国、ウクライナ、その風土について簡単に触れ、前回紹介致しましたNPO法人SunPanSaの会によるウクライナ傷病者に対するリハビリ治療の支援活動について、その後の経過を報告致します。

 さて季節は冬に逆戻り、里山のモノトーンで寂寥とした風景の中で、ひときわ鮮やかな黄緑の色を添える麦畑を見つけますと、一瞬寒さも忘れ心嬉しくなります。しかも青い麦畑は、冬から早春、晩春と、季節が進むにつれて色調が微妙に変化し、やがて初夏を迎えて麦秋の世界となります。そこで今回は、その麦畑の変化の様子をお伝えします。

冬の日の昼下がり、日陰となった山腹の一部がスポットライトを浴び、明るく暖かそうに輝きます。


冬の川は、押し黙ったまま無表情に流れます。


そんな寒々とした冬景色の中で、枯れすすきに見守られるように、麦の新芽がすくすく育っています。


ずんずん伸びた若い麦穂が長い列を作り、規則正しく並びます。


小春日和の日、葉のすっかり落ちた柿の木が一人ぽつねんと立っています。背景に拡がる緑の麦畑が「のどかさ」を演出します。


こちらの柿の木も葉はすっかり落ち、主役を演じているのは光り輝く枯れすすきです。


新緑の季節となりますと、主役は入れ替わります。上の写真と同じ場所で、ほぼ同じ角度で撮影したものですが、すすきは消え、柿の木には柔らかな黄緑色の若葉がいっせいに茂ります。私は新緑の中でも、柿の若葉の黄緑が一番好きです。


ため池の水面に、新緑の小山が色とりどりに映えます。


新緑の季節となりますと、麦畑の色は、緑色から青白くなります。アイスクリーム入りメロンソーダの色です。麦の若い穂が伸びて来るからです。この柔らかな早緑色も、私は好きです。


画面手前が若い穂の現れる前の麦畑、奥が現れた後の麦畑、色の違いがよく分かります。

麦畑は春風のバロメーター。嵐のような強風に、大きく揺れます。


麦畑が少し黄味を帯びて来ますと、周囲にはお構いなく不思議なほど光り輝きます。


飛行機雲の飛ぶ青空の下、すっかり黄色くなった麦畑が拡がります。 斜めに走る黒い線は、電柱の長い影です。

 左はウクライナの二色旗です。上半分の青は青空、下半分の黄は広大な麦秋の畑を表わしていると言われます。 なるほど前ページの写真を見ますと、それも頷けます。  ウクライナの現在の国旗は、1992年ソ連から独立した時に正式に制定されました。総務省総計局の資料によりますと、2022年におけるウクライナの小麦生産量は世界7位だそうで、黄色が麦秋を示すことは納得できます。 

 

 一方、ひまわり畑であるという説もあり、そう言えばソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニの共演したイタリア映画「ひまわり」には、ウクライナの大ひまわり畑が登場しました。「ひまわり」は、国民に広く親しまれている国花でもあります。

 この青と黄の二色旗がウクライナの国旗であることを知ったのは、つい昨年のことで、それまでは、まったく知りませんでした。今まで私たちにとって馴染みの薄い国であったウクライナ、これから少しずつ勉強して行こうと思います。まずは国土や気候などについてまとめてみました。

1)国土:ウクライナの国土面積は約603,700km2で、日本の約1.6倍、ロシアを除くヨーロッパ諸国の中で最大です。国土の95% は平原で、その中央をヨーロッパ第3の大河ドニエプル川(ウクライナ語でドニプロ川)が縦断し、キーウ、ドニプロ、ザボリージャ、ヘルソンを経て黒海に注ぎます。
2)気候:ほとんどが温帯大陸性気候で、クリミア半島南岸部のみが亜熱帯または地中海性気候です。月平均気温は、もっとも低い北東部や山地部で1-7-8度、最も温かいクリミア半島南岸で-2-4度、7月はそれぞれ1718度、2223度ぐらいだそうです。
3)人口:ウクライナ国家統計局によれば、2021年におけるウクライナの人口は4,159万人(クリミアを除く)ですが、戦争の始まった2022年には戦死や国外避難などにより数百万人規模で減少しているものと思われます。民族としてはウクライナ人が約80%を占め、ついでロシア人20%弱となっているそうです。

ウクライナの地図と主要都市 (Google Mapより引用、改変)

 さてウクライナ傷病者のリハビリ治療支援活動ですが、410日に傷病者6名とそのご家族2名の計8名が来日されました。うち3名は現在、済生会明和病院にて義手の作成とリハビリ治療を受けておられます。

 

 右の写真はそのうちの一人の方で、左の義手を使いながら切り絵の練習をしているところです。最近では、ペットボトルを開けたり、靴紐を結ぶこともできるようになったとのことで、「手を失ってから初めて自分で靴紐が結べた」と喜んでおられます。一連のリハビリが完了するまでには、最短でも78か月間の通院治療が必要とのことです。     

義手による「はさみ」の使い方の練習

 現在3名とも松阪市内に在住で、2名は一軒家で共同生活を、1名はご家族2人と一緒に別の住居で生活しておられます。皆さん、一緒に買い出しに出かけたり、日本語の勉強も始めておられ、また毎日団体メンバーが訪問し、日々の悩みの相談などを受けています。
 残り3名の傷病者は、私どものお薦めした治療方針に同意の得られなかったことや、治療期間が半年以上と長くウクライナに残して来た家族が心配だとの理由で帰国されました。
 ウクライナの方々の言葉です。「私達には家族が二つあります。一つは血のつながった家族、もう一つはウクライナで祖国を守るために戦っている同胞です。」

 一方、ウクライナ傷病者リハビリ支援のためのクラウドファンディングですが、おかげ様で513日現在1,140万円を超えるご寄付をいただきました。皆様方の温かいご厚情に心より御礼申し上げます。これからも傷病者をお迎えし、この活動を継続するためには、まだまだ費用がかかります。クラウドファンディングの締め切りは526日で、まだ少し時間が残っていますので、さらなるご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

治療を受けられずにいるウクライナの傷病者へ、日本でのリハビリ支援を(NPO法人SunPanSa 2023/03/30 公開) – クラウドファンディング READYFOR

参考文献:「ウクライナを知るための65章(電子書籍版)」(服部倫卓、原田義也編著、202245日発行、明石書店)

世界中の麦穂がおぼろ月を見上げています。ウクライナの麦穂たちは何を想って眺めているのでしょうか?

                                                                                                                              令和5514日

                 桑名市総合医療センター理事長 竹田  寛 (文、写真)
                                竹田 恭子(イラスト)

 

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