名誉理事長の部屋令和6年9月1日付で、竹田寬先生に名誉理事長の称号が授与されました。

名誉理事長の部屋

11月:メタセコイア

―生き返った化石の木、住み良いですか?この地球!―

すっかり紅葉したメタセコイア

  •  今年は温かい12月です。とても冬とは思えません。年の瀬を迎えて、こんなに暖かくて良いのかと疑問に思います。例年12月ともなれば、朝の出勤時にはコートが欠かせないのですが、今年はコートを着ていくべきかどうか迷ってしまいます。地球温暖化という言葉を聞いて久しくなりますが、ほんとうにこんなに暖かくて良いのでしょうか。
     折しも地球温暖化について話し合うCOP25(第25回気候変動枠組条約締約国会議)が12月2日から13日にかけてスペインのマドリードで開催されました。COPとはConference Of the Partiesの略で、地球温暖化を防止するため国際的な枠組みを設定しようとする条約(気候変動枠組条約)に加盟している国々が集まる国際会議です。1995年に第1回会議(COP1)がドイツのベルリンで開催され、それ以後、毎年世界のどこかの都市で開催されています。1997年のCOP3は京都で開催され、京都議定書が締結されました。2015年パリで開催されたCOP21では、世界の平均気温を産業革命前と比べ2度未満の上昇に抑え、できれば1.5度未満をめざすというパリ協定が提唱され、気候変動枠組条約に加盟する196か国すべてが参加するという画期的なものとなりました。今回のCOP25におけるトピックスは次の3つです。
    1)パリ協定の施行がいよいよ2020年から始まりますので、各国における対策の細部の調整と、温室効果ガスの削減目標値の引き上げなどについて話合われましたが、最終的な合意には至らなかったようです。また周知のごとくアメリカのトランプ大統領はパリ協定からの離脱を宣言しており、これからの成り行きが注目されます。
    2)今回特に注目されたのは、スウェーデンの16歳の女性活動家、グレタ・トゥーンベリさんをはじめとする多数の若い人達が会場に駆け付けたことです。地球温暖化の影響を最も深刻に受けるのは、私たちや次の世代よりも、今の20代以下の若い人達でしょう。トゥーンベリさんは、将来の地球環境に強い危機感を抱き、自分達の問題として切実に捉え、15歳の頃からスウェーデン本国はもとより世界各国に向けて、気候変動に対しもっと強力な対策を取るように強く訴えて来ました。その力強い演説は、世界中の若者の大きな共感を呼び、若い大きな潮流となって大人の世界に訴えかけています。トゥーンベリさんの演説は少し過激すぎる感もありますが、このように世界中の若者が心一つになって訴えかける運動は、今まであったでしょうか。願わくは最後まで暴力に訴えないことです。私たちの世代の学生運動も、この前の香港での反政府運動でも、最後は暴力沙汰になりました。またトゥーンベリさんは、自らも二酸化炭素などの排出を抑えたライフスタイルを実践しており、COP25に参加した時もアメリカからスペインまでヨットで駆け付けたとのことです。
    3)もう一つの話題は、日本が化石賞という不名誉な賞を受けたことです。これは、地球温暖化問題に取り組む世界120か国の1300を超えるNGO団体のネットワーク、CANインターナショナルが、地球温暖化に対し姿勢が後向きの国に授与するものです。パリ協定の目標である、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べ1.5度未満に抑えるためには、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにしなければならないそうです。しかし日本は、今後のエネルギー政策として、温室効果ガスの産出量の多い石炭火力発電を選択肢の一つに残し、今後も開発を進めようとしており、その日本の姿勢が強く批判されたのです。

 とにかく地球温暖化は確実に進んでおり、一刻も早く温室効果ガスの排出を減らさなければならないことは間違いないでしょう。ほんとうに暖かい今年の12月、そこで桑名市において毎日の最高気温と最低気温(日最高気温と日最低気温)は平年に比べどうなっているか、調べてみました。下のグラフをご覧ください。日最高気温(桃色)も日最低気温(青)も、点線で示した平年値と比べ全般的に高いことが分かります。間違いなく今年の12月の気温は高いのですが、最低気温の高いことに大きな影響を受けるのは紅葉です。私たちの子供の頃は、紅葉は11月中旬から下旬にかけて見頃を迎えたように記憶していますが、最近では12月に入ってからピークになるという所もかなりあるようです。一般に紅葉は、最低気温が10度から8度ぐらいまで下がると始まり、5度を下回ると急速に進みます。前ページのグラフの中の赤い直線は5度を示しますが、平年であれば12月の最低気温は5度前後で始まり、中旬、下旬と進むにつれ直線的に低下していきますが、今年は下旬になっても5度を上回る日がかなりみられます。したがって今年の紅葉は、紅葉が始まってもなかなかピークにならない、不完全のまま長く続いた、そんな感じがします。

  • 桑名市における今年12月の毎日の最高気温と最低気温の平年との比較(気象庁の資料より作成)

     さて今月の植物は、その紅葉の美しいメタセコイアです。数年前から写真を撮り続けていて、今年こそ本稿で取り上げようと思い、11月中頃から自宅の近所にある数本のメタセコイアの木に目をつけ、毎日眺めては紅葉するのを待っていました。しかし少し色付いただけでなかなか紅くなりません。最低気温の高いためだと思いますが、それでも緩やかながら紅葉は進み、12月中旬になってようやくピークに達しました。その時に撮影したのが冒頭の写真です。メタセコイアと云えば、滋賀県高島市のメタセコイア並木が有名で、ほんとうは行きたかったのですが時間が取れず、仕方なしに近所のメタセコイアの写真になってしまいました。下の写真は、津市西部の青山高原に立つメタセコイア並木です。紅葉の盛りにはまだ少し早いようですが、美しい円錐形の樹形が青空によく映えています。後方にある民家と比べますと、その高さが分かります。

  •  メタセコイアは、スギ科、メタセコイア属の植物で「生きた化石」とも云われます。今から2億年から2300万年前頃(中生代ジュラ紀から新生代古第三紀)に繁栄したセコイアと呼ばれる古代植物の仲間です。和名はアケボノスギです。
     セコイアの仲間のうち現生するものとして有名なのが、北米西海岸のオレゴン州からカリフォルニア州の海岸近くの山地に自生するセコイア・センペルビレンス(スギ科、セコイア属)です。センペルビレンスとはラテン語で「常緑」という意味で、一般にはセンペルセコイアあるいは単にセコイアと略されます。樹皮が赤いためレッドウッドとも呼ばれます。 巨木となることで知られ、カルフォルニア州のレッドウッド国立公園には、樹高100メートル、直径10メートルを超える世界一の巨木があります。大きな立木の根元をくり抜いて自動車の通れるトンネルを作リ、来訪者を楽しませています。

    レッドヒルヒ―サーの森(赤塚植物園)に立つセンペルセコイア

     

     

    レッドウッド国立公園の立木のトンネル

     

  •  他によく似た植物として、ラクウショウ(スギ科、ヌマスギ属)があります。沼地などに生育するためヌマスギ(沼杉)とも呼ばれ、メタセコイアと同じように紅葉します。

 それでは、メタセコイアとセンペルセコイア、どこに違いがあるのでしょうか。

メタセコイア(紅葉、小枝は対生)

センペルセコイア(常緑、小枝は互生)

 まずメタセコイアは紅葉しますが、センペルセコイアは名前に示される通り常緑です。
   またメタセコイアでは小枝は枝から左右対称に出る対性であるのに対し、センペルセコイアでは互い違いに出る互生です。

メタセコイアの葉(紅葉)

センペルセコイアの葉(互生)

 小枝より左右に出る葉を較べれば、メタセコイアの対生、センペルセコイアの互生の違いは、さらによく分かります。
 一方、ラクウショウの葉はセンペルセコイアと同じ互生ですが、メタセコイアのように紅葉します。

センペルセコイアの冬芽

冬芽の拡大写真

メタセコイアは「生きた化石」と云われますが、それは次のようなエピソードに由来します。戦前の話ですが、大阪市立大学教授の三木茂博士は、日本各地の新生代の地層から多数出土するセコイア類の化石を詳細に比較研究しました。 そして昭和16年、岐阜県土岐(とき)市の粘土層から、センペルセコイアやラクウショウとは少し形態の異なった植物の化石を発見します。それは葉の付き方が互生ではなく対性で、果鱗の形も異なるもので、従来のセコイアではなく「少し変わったセコイア」の意味で、「メタセコイア」と名付けられました。既に絶滅したものと考えられていましたが、三木博士の発表から4年後の昭和20年、その植物が中国の河北省や四川省で実際に生きているのが発見されました。しかも化石にみられる特徴がそのまま確認されたことから、「生きた化石」として一躍有名になりました。当時日本は戦後の混乱期にあり、「日本人が化石で発見した植物が、実際に生きていた」と世界中を驚かせました。

最初に発見された メタセコイア (中国、河北省)(文献1より引用)

 現地を調査して種子を採集した米国の古生物学者は、三木博士が大阪市立大に設置した保存会へ苗木100本を贈りました。贈られた苗木は、日本各地の大学や研究所へ配布された後、挿し木で増やして希望者に配布されましたが、成長が早く、新緑、紅葉ともに円錐形の樹形が美しいため、街路樹や公園の樹木などとして全国に広まりました。
 旧三重県立博物館でも昭和28年に三木博士から2本、翌年には農林省林業試験場から3本を譲り受けて正面玄関前に並べて植え、長年シンボルツリーとして市民に親しまれて来ました。現在は8本になっていますが、樹間が狭すぎるためか枝が短く払われてトーテムポールのような気の毒な樹形になっています。

旧三重県立博物館前に立つメタセコイア

枝が短く切られています

トーテムポールが並んでいるようです

 下の写真は、現在の三重県立総合博物館(MieMu)に所蔵されているメタセコイアの化石です。いなべ市北勢町でみつかったもので、700万年から200万年前頃の化石だそうですが、葉の付き方が対性となっていることが良く分かります。(博物館の方のご厚意により撮影させていただきました。)

 

夕陽を浴びて輝くメタセコイア

 さて病院の話題です。今回は2019年6月の「理事長の部屋:あざみ」で紹介致しました卓球珈(カフェ)の活動について報告致します。卓球珈琲とは、卓球とコーヒーを通じて地域住民の健康増進とコミュニケーションの活性化を図ろうとする運動で、桑名市、桑名市総合医療センター、桑名市医師会、卓球で日本を元気にする会、ネスレ日本、朝日エルなどが共同して行っています。その第1回プログラムが、9月から11月までの3か月間、桑名市城南まちづくり拠点施設において実施されました。参加者は17名(男性4名、女性13名)で、年齢は50代~80代(平均年齢66.3歳)、70代の方が9名と半数以上を占めました。参加者には、プログラムの開始前後に、血糖やコレステロールなどの血液検査、血圧、体水分量などの測定を行い、精神面に関するアンケート調査も行って、その変化を調べました。参加者の皆さんには毎日適度に卓球を楽しんでいただきましたが、月2回専門のインストラクターによる卓球指導と、糖尿病専門医などによる月1回のヘルスケア教室を受けていただきました。また休憩時間には、ネスレ日本の提供によるコーヒーサーバーを囲んで寛いでいただきました。そうして3か月が経過しましたので、その結果を簡単に紹介致します。
1)血液検査では中性脂肪や悪玉(LDL)コレステロール値の低下する傾向がみられた。
2)細胞外水分比の減少がみられ、体の中の水分均衡が改善しているものと考えられた。
3)体の痛みが減少し、活力が上昇して、日常生活での身体的機能の改善が顕著にみられた。
4)「明るく楽しい気分で過ごせた」「落ち着いたリラックスした気分で過ごせた」「意欲的で活動的に過ごした」「ぐっすりと休め気持ちよく目覚めた」「日常生活の中に興味のあることがたくさんあった」など、精神面での改善が顕著であった。
5)地域への愛着という点では全般的に改善がみられたが、特に男性において「地域をもっとよくしたい」「地域の中に生きがいがある」「地域に誇りを感じる」「地域に挨拶できる人がいる」など、地域に対する愛着度が増大した。

 地域における高齢者の孤立は大きな社会問題であり、特に男性において深刻ですが、卓球珈琲を通じて少しでも改善できる可能性があると思われました。そして何よりも素晴らしかったことは、終了式において参加者全員が実に仲良く和気藹々として、楽しそうにしていたことです。その様子を拝見しただけでも、このプログラムを行った甲斐があったと確信しました。
 今後は、城南地区では引き続きプログラムを継続して住民の皆さんの健康増進をめざし、来年度からは桑名市内の他の地域へも活動を拡げていきたいと念願しております。
これからもどうぞよろしくお願い致します。

インストラクターからの説明を聞く参加者の皆さん

ヘルスケア教室

コーヒーサーバー

文献1)塚原 実(大阪市立自然史博物館):メタセコイアの発見と普及―三木 茂博士の発見から
              75年―    化石 100,1-2,2016.
                                令和元年11月
               桑名市総合医療センター理事長 竹田   寛 (文、写真)
                                  恭子(イラスト)

 

バックナンバー